出勤途中にざわざわと人集りがあるのを見つけた俺。『なんだろう？』と思ってたら女性が『うーうー』唸りながら倒れてた。俺が女性を介抱したら・・

人助けをしたら人生が破滅した。

ある日の出勤途中にざわざわと人集りがあるのを見つけてしまって
何だろうと思っていたら女性が一人うーうー唸りながら倒れていた。
持病の発作？かてんかん発作？みたいな感じだったけど詳細は不明。
人集りにいる人達は遠巻きに女性を囲むようにして立っていたけど誰も助けようとはしていなかった。

さすがに見ていられなかったので、近くにいた人にとりあえず救急車呼んでくれって頼み女性を介抱した。
女性は唸りながら吐いたりもしてスーツが汚れて、正直嫌だなとか会社今日は行けないかもなとか思いながら
とりあえず近くのベンチ、を探したが無かったので何とか横に出来そうな所に移して、水とか買ってきて飲ませてあげたりしていた。

やがて救急車が来て女性を乗せていって貰いとりあえず会社に電話して事情を説明していると、警察に何故か声をかけられた。
その時は「え？何で警察が？」って疑問に思ったけど人集りの中に警察呼んで来た人もいたのだろうかと思い
とりあえずパトカーで話を聞きたいって話でのこのこパトカーに入っていった自分が馬鹿だった。

その場で現行犯逮捕されて、留置場に連れて行かれた。
取り調べでは「俺が体調を崩した女性に性的暴行みたいな事をしていた」という通報があった、という体で話された。
否定したけど、認めないとこのまま取り調べが続くぞ、家にも帰れないぞ、助けた女性も
「お前に襲われて体を触られた、病気のせいで怖くて抵抗出来なかった」と証言しているぞ、とまで言われた。(これは後に半分事実と分かる)
パニックと恐怖で頭おかしくなりながらも、数日の取り調べで憔悴して言われるがままにやってもない罪を自白してしまった。
これは後に不起訴とはなったが一度は罪を認めた犯罪者になってしまった事に変わりは無い。

そうしてやっと釈放されたが、会社の方は俺が逮捕された事になっており、事情は説明したものの結局は警察沙汰になってしまった事実と
社員一人一人の素行が管理されている会社だったのもあり、無断欠勤(勾留期間中)を理由に解雇(書類上は自主退職)となった。
妻にも一応は信じて貰えたが、解雇されてまたストレスでしばらく寝込んでしまった事、それにより経済的な不安を感じさせてしまった事
子供が生まれたばかりで「この子を性犯罪者かも知れない人の娘にさせたくない、世間は私達みたいに優しくは思ってくれない」という
妻の希望で、離婚する事になった。

仕事も家族も失い茫然自失になった時に、俺が助けた女性の代理人と名乗る人間から連絡があり、事情を説明して貰った。
自分が女性を介抱していた時、女性の同僚という人間がその一部始終を目撃していたらしく(見ていたなら知り合いなら助けろよって今でも思うが)その時の様子が介抱にかこつけてそういう事をしている、様に見えたと。
女性の方も突然発作で倒れたり吐いたりしていたショックと恥ずかしさもあって記憶が混濁しており、同僚の誘導？に話を合わせてしまう形で
もしかしたらそういう事をされていたかも…と警察から話を聞かれた時にも言ってしまったらしい。
後でとんでもない事をしたと思ったが、持病を勤務する会社に隠していた事もあり中々言い出す事が出来なかったと。

「本人が来て謝れとは言わないが、俺は家族も仕事も失った。責任取れんの？何で助けた自分がこんな目に遭わなきゃいけないの？」
って情けないけど涙声で代理人に言ったけど、そいつからは「女性さんからのお詫びのお気持ちです」と、3万円が入った封筒を渡された。
俺の人生は3万円だったのかよ、って本当に落ち込んだけど、代理人が言うにはそもそも誤認逮捕したのは警察だから女性にも
通報した同僚にも責任は無く、寧ろ女性は自ら謝罪を言い出しているのだからその気持を汲んであげて欲しい、とまで言われた。
ふざけるなって思って代理人に怒鳴って八つ当たりしてしまった。今では申し訳ないとは思うが、やはり許せない気持ちはある。

逮捕と取り調べトラウマでしばらく精神がおかしくなっていて、カウンセリングを受けたりして
精神状態が何とか少し落ち着いてからバイトなどをしながら再就職活動をして何とか再就職出来て
それから何とか働いて安定してきた頃には、もう40歳を過ぎていた。
独身時代から贅沢をせずにコツコツ貯めていた貯金は、離婚時の財産分与・慰謝料と、娘への養育費で全て消えてしまった。
それでも足りずに借金までした。それは親の遺産で返済したが。

娘は俺の事をもう覚えてもいないぐらいだし、あちらは再婚もして新しい父親にも懐いているから
もう今後も会わないで欲しいと言われて、今更こんなのが現れてもどうしようも無いだろうと承諾した。

父があまり良くない男で、自分が小学生の頃に離婚して母一人子一人で、正直色々な面で苦労した。
だからこそ、暖かい家庭を作りたい、母にも孫を見せてあげたいと思っていたが、結局母には産まれて少しした後に
一度だけ会わせてあげられたぐらい。
俺がバイトも出来ずに家で寝込んでいた時も支えてくれていたが、その苦労からかそんな歳でも無かったのに亡くなってしまった。

もう俺には何も無い。
あの時人助けをしてしまった事を本当に後悔している。
見ず知らずの赤の他人に、何もリスクなど考える事なく自ら関わってしまった自分が愚かだった。
自分の軽率な行動のせいで、自分の、そして妻や娘の人生までも狂わせてしまい、母の夢を砕いてしまった。
自業自得、親切心なんて何の役にも立たなかった。