俺の自転車を盗もうとしてた高校生のカップル。俺が「ちょっと、何してんの止めろ！」と言ったら、男が「あー？お前のチャリ？さっさと鍵寄越せ！」と言ってきて・・・

もう何年前になるだろうか。
当時内定も決まってホッと一息ついていた俺は、買い物に行ったスーパー的なドラッグストアの自転車置場に置いた。
ふと窓を見ると俺の自転車を何やたベタベタ触っている高校生ぐらいの若いカップルがいた。
何やってるんだ？と思って急いで見に行くと、石か何かでブレーキを叩いて壊そうとしていた。
どう見ても盗もうとしていた。
思わず反射的に「ちょっと、何してんの止めろ！」と言ってしまった。

すると、男の方が振り返って「あー？お前のチャリ？さっさと鍵寄越せ！」と怒鳴ってきた。
女の方はそんな彼氏？を見てケラケラ笑っていた。
この男は本当に何を言っているのか、何をしているのか。
いきなりの事で反応出来ずにいると、「黙ってんじゃねーよキモいんだよ！」って言って、俺を蹴り飛ばした。
吹っ飛んで転んで痛みと屈辱とショックで泣きそうになりながらも店の方に逃げ込もうとした。
が、店内に入った所ぐらいで「逃げんなよ！」って背中を蹴られて吹っ飛んで、そのまま店の外に引きずられた。
店内にいたパートっぽい店員と目があったが、怯えて迷惑そうな顔をしていたのを妙に覚えている。

俺はそのまま店内に引きずられて何度か殴る蹴るされた。
カップルの女の方は、俺を暴行している男を携帯を弄りながら眺めていてケラケラ笑っていた。
さすがに怖くてやめろ！って抵抗したら、男がいきなりナイフを取り出してきて、俺は刺された。

その後の事はよく覚えていない。
血がダラダラ流れて、痛みと衝撃で気が遠くなって、汚い話だけど大も漏らしてて、気がついたら病院だった。

いきなりの事であまり実感は無かったんだが、殴る蹴るされてた時点で、骨とか折れまくっていた様で、
オマケに刺されて、救急車来るまで時間かかったせいか、俺には後遺症が残った。
具体的には車椅子生活になった。
頑張れば、歩けない事も無かったが、長時間は無理なので、仮に外出する時は車椅子じゃないと難しい体になった。★

カップルは逮捕された。二人はギリギリ未成年で、大した罪にはならず、男は少年院に入ったらしいが、女の方は不起訴処分。
男の親の方は一応謝罪に来たが女の方は謝罪すら来なかったよ。

数ヶ月の入院・リハビリを終えて家に帰ったら、父親が会社をクビになっていた。
父親は地元企業で働いていたのだが、地元では「俺がカップルの女を性犯罪目的か何かで襲いかかり、
一緒にいた男が制止しようとしたが、俺が暴れた為もみ合いになって、思わず咄嗟に持っていたナイフで刺してしまった」事になっていた。
後で色々話を聞いたりした限り、カップルの両親兄弟、親戚等がそういう一方的な都合の良い、いや完全に嘘な噂を流していたらしい。

しかし物騒な地域でも無い一地方。
変な噂が出回るのは早く、父親は噂を真に受けた取引先から出入り禁止を食らい、問題視した上司達から自主退職に追い込まれたらしい。
「お前のせいで…！」って言って、何度か殴られた後、「ああ…ごめんごめん、ごめんな…！」って、土下座された。
俺には何が何だか分からなかった。

結局、親父は仕事も無くなって、近所にも住めなくなったので、苦労して建てたマイホームを売って、別の土地に引っ越した。
当然、俺は仕事など無理で、内定は取り消しになった。大学の方は単位取り終わっていたが、こちらも危うく卒業を取り消されそうになっていた。
自宅から大学に通っていた妹は、転居先から通学するのは難しいのと大学の方にも噂が出回っていた事になり、中退した。
その事で直接責められはしなかったが、俺は本当に申し訳無かった、俺のせいで本当にごめん……って。
☆

引っ越した先は、父の転職先に近い所。
が、前職より給料が半分程度、の割に酷使されている、年齢で足元を見られたと酒を飲みながら愚痴る様になった。
俺のせいでは無いけど、俺のせいだから本当に申し訳無かった。
それでもリハビリには付き合ってくれたりした事には今でも感謝している。

そんな父親は、事故であっさり無くなった。居眠り運転で、自損。
ストレスと過重労働で睡眠時無呼吸症候群が再発していたらしい。
巻き添えの被害者がいない事だけが、不幸中の幸いだった。

父を失って、母親はあからさまに老け込んだ。俺の車椅子を押すのも辛そうだった。
その時住んでいた家に住み続けるのも難しく、古くて小汚い団地に引っ越した。
バリアフリーなんてある家には住めないから、一階にある事だけが唯一の利点みたいな家。
それ以外は、冬寒くて夏暑い、虫はよく入ってくる酷い家。
でも俺の体の事を思って選んだ事を考えると、贅沢は言えなかった。
妹は一人暮らしをしていた。

身体障害者として就職しようとしたが、後天的とは言え何の職歴もスキルも無い20代半ばの男。
健常者どころか、有名大学卒ですら就職が厳しくて逆学歴詐称をしていた不景気の時期。
就職先は中々見つからず、何とか見つけても安い給料とサビ残で酷使された後、整理解雇された。
「障害年金があるのだから給料なんて○万円(フルタイム)で良いだろう」
「お前らみたいなのを働かせる為にバリアフリーを設置した、無駄金を使わされている」
「働かせてやってるだけで感謝しろ、バリアフリー代分ぐらいは稼げ、この無能が！」
こんなパワハラを日常的に受けて、仕事を探す事が出来なくなった。
後になって、鬱状態だと判明した。

障害年金と母のパート代だけで細々と生活する日々。
そんなある日、妹の結婚が決まったという。
俺たちは喜んだけど、挨拶に来たいという段になって一気に落ち込んだ。
こんな汚い団地と、俺みたいな存在は見せられないと思った。
そんな自分達の惨めさが辛かった。★

妹の婚約者一家は、結局母が一人で対応した。外の多少良いお店で食事したらしい。
せめて妹だけでも…と思っていたが、結論から言うと、妹の結婚話は破談になった。
相手の親が我が家の事を調べ、「性犯罪者未遂のカタワの身内がいる！」となって、
騙してたなど騒ぎになり、相手の男からも拒否され、全てが台無しになったという。
「お兄ちゃんのせいで！！私の人生返してよ！」
返す言葉も無かった。車椅子から倒れる様に降りて、泣きながら土下座した。
妹の顔は見れなかった。

それ以来、妹とは会っていない。どこで何をしているかも知らない。
母とは年に一回、生存報告の様な形で簡単に連絡は取っているらしい。
詳しい事は知りたく無かった。これ以上俺のせいで、と思いたく無い。

そして俺は、今も無職の障害者だ。
もう結婚も就職も無理な年齢で、母は生きているけど年金暮らしで足腰も弱って来ている。
それでも少しでも生活費の足しにと、掃除のパートをしている。
古く汚く安い家とは言え、大人二人暮らしをするには、俺達の年金だけじゃ苦しい様だ。
もしかしたら、俺と同じ様に母も貯金をしているかも知れない。
散々迷惑をかけてしまった妹に、少しでも残せる様に。
せめて葬式代ぐらいは出せる様に。

俺もなるべく、母に迷惑かけない様に、自分一人で生活する様にしている。
が、俺自身も老いなのか体に不調があるのか、汚い話だがたまにトイレを失敗する事すらあり、
母が黙って掃除しているのを、気まずそうに見つめている時間がとても辛い。★

もういつ買ったのか、母が知人の息子とやらに譲って貰ったんだか買わされたのか、
古いVistaのPCで、この懺悔を書いている。
正直早くに楽になりたいが、せめて母を見送ってからにしたい。
それからなら、ゆっくり朽ちていける。

普段は質素な生活しか出来ないけど、クリスマスぐらいはと、母は毎年チキンとオードブルとケーキを買ってくる。
俺もそんなに食は太く無いし、毎年毎年余らせて翌日とか翌々日に冷めてあまり美味しくない残り物を食べる羽目になるのに、
「一年に一回ぐらいは」と買ってくる。年末は年越しそばを作ってくれるんだろうな。
歳を取るのが辛いし、年を越したくも無いけど、せめて母が旅立つまでは、と我慢している。

クリスマスの夕食に並ぶ、いつもより豪華な食事。
母の気持ちだと分かっていても、それでも俺は辛いよ。何で俺がこんな目にって、改めて思ってしまうよ。
俺悪い事なんにもしてないのにさ。
自転車だって買ってそんなに経って無かったから、慌てて声をかけたのが間違いだったのか？
咄嗟の判断で一生を台無しにした俺は自業自得なんだろうか。

世間的には、俺は犯罪被害者では無く加害者未遂だから、保障なんて何も無い。
名誉もなくて、当時いた恋人も友人も、皆連絡不通になった。
世間的には、俺は起訴されてないだけで性犯罪の加害者扱いだから、冤罪であると100%信用してくれるのは自分自身だけだ。
母も口では信じてくれているけど、実際はどうだか分からない。
妹は多分信じて無いだろうな。父親はどうだったんだろうか？今じゃ何も聞けやしない。

何かをしたくても、俺には何も出来ない。
何かをする気力が無い。もうとっくの昔に尽きてしまった。
どうして俺が、俺だけが、こんな事になったんだろうな。
俺悔しいよ、お母さんゴメンね、みっちゃんにも本当に申し訳無いよ。
俺みたいなのが産まれて来なければよかったんだろうな。
こんな所にしか、俺がいたっていう証を残せないよ。
本当にごめんな。俺悔しいよ、本当にごめんね、ごめんなさい。。。。。。。。。。

悔しいのを吐き出してみたけど、やっぱり辛いし悔しいよ。
懺悔ってこうなんだろうか？
楽になれない自分自身すら憎い……★